3つの資質・能力を「学びのサイクル」にしてみた〜新学習指導要領・学びの地図〜

指導要領

まずは、こちらの画像の赤枠で囲まれた部分をご覧ください。

 

 「学びサイクル」とは、指導要領が示す3つの方向性(※1)のうち「何ができるようになるか」を図化したものです。いわゆる、必要な資質・能力や3観点評価で目にすることの多い内容です。

3つの資質・能力とは
◎ 知識・技能 ◎ 思考・判断・表現 ◎ 学びに向かう力・人間性

 では、今回も指導要領をどのように解釈し、地図の作成をしたかを書いていきます。

学びサイクルの車軸

 3つの資質・能力を個別に見る前に、サイクルを回すための”車軸”を押さえます。ここが折れていると、シャフトのない車で走行するようなもので、上手に走りません。では、車軸となるものは何でしょうか。

 結論は、「3つの資質・能力の結びつきが、変化の激しい正解のない世界を切り拓くために必要な力」であることです。

 正解のない世界とは、成功マニュアルが存在せず、穴埋め問題のように解が一つに決まらない世界です。身近なところで言えば、新型コロナウイルスによって大きく変わった世界でしょうか。

 2020年8月現在の日本国内では、マスク着用率はほぼ100%となっています。学校でも同様に「マスクは必ずつける」がルールになっています。しかし、これまでの学校では、花粉症や風邪気味ではない限り「マスクは外そうね」というルールだったはずです。

 何が言いたいかというと、絶対的に正解だと思っていたことが、外部の変化によってひっくり返り、正解ではなくなるということです。

 この事例は多少の飛躍はありますが、変化の激しい正解のない世界で生きていくためには、これまでの正解にこだわらず、「何が正しいのか?」を考え、導き出す力が必要なのです。

 まとめると、これからの時代に必要な力は「知識をつなげ、問いを立て、現実世界を変化させていく力」であり、前述した3つの資質・能力に該当するのです。

 3つの資質・能力を育てようとしている背景を詳しく知りたい方は、以前の記事(学習指導要領 改訂の背景編)をご覧ください。

サイクルの全体像

 学びの地図の目的は、教える側と教わる側が、今どこにいて、どこへ、どのように進むのかを明確にすることです。

 つまり学びを見える化し、子どもたちと共有するのです。そのため「子どもに伝わってなんぼ」という姿勢で、これら3つの資質・能力をつなげています。

 そして、サイクルにした理由を3つあげます。

①知識・技能の習得が学びの目的ではないこと
②学びに終わりはないということ
③資質・能力は独立でなく、つながりがあること

 要は、これまでの知識詰め込み型指導、評価からの離脱を強く示しています。そして、問いを生み、道具を手に入れ、使い方を工夫し、自他の変化を生み出すサイクルを繰り返そうとしています。

知識・技能(Input)

 図では、パズルのピース集めという表現になっています。ここで重要なことは、「いくらピース(道具)を持っていても、変化は起こせないよね。」ということです。

 数学の公式を覚えても、歴史の年号を覚えても、漢字が書けても、それだけでは外部に価値(Output)を生み出すことはできません。

 実際の授業における例え話として、ポケモンを使っています。「知識とかスキルを手に入れるって、ポケモン集めみたいだね。でも、ポケモンを何匹手に入れても、ストーリーは進まないよね。」と言ったりします。

 つまり「知識・技能」は集めることが目的ではなく、使う場所や目的に応じ、組み合わせて使うための「道具」であることを意味しています。

 そして➡になっている、ピースの組み合わせ部分を「いろんなタイプのポケモンをゲットすれば、どんなタイプの相手ポケモンにも合わせられるよね。組み合わせとは、バトルのときにどのポケモンを出すかを考えて、選ぶことだよ。」と伝えます。

 この組み合わせの部分は、思考・判断に該当するため、後ほど詳細を説明します。

 子どもたちからすると、「ポケモンを集めて選んで使う」というイメージが、「知識・技能」の習得と、「思考・判断・表現」をつなぐ架け橋の役割を果たすのです。

思考・判断・表現(Output)

 パズルの完成という表現です。これまでの知識や経験を動員し、「自分なりの答え」を結論づけ、形として表現する場面です。

 細かい点ですが私の解釈では、思考・判断と表現は区別する必要があると思っています。なぜかというと、完結する場所が自己の内部か、それとも外部かの違いがあるからです。

 例えば、サッカーでパスをAとBのどちらに出すかを迷ったとします。Aはゴールまで最短距離だが、カットされるかも。Bはゴールまで距離は伸びるが、カットはされない。時間的に終了間際だ。

 この段階は「思考」です。

 もうアディショナルタイムに入っているから、短い時間で攻撃しよう。だからAの最短距離でいく。

 これは「判断」です。

 ここまでは、自分の頭の中で完結させることができますが、実際にパスを出すという行為は「表現」であり、その行為は外部から認識され、他の人に影響を与えます。

 そのため、パスするという考え自体は内的な処理によって結論づけられたものですが、行動に移すかどうかによって外部の状況は変わります。

 Aのパスは、おそらくキラーパスでしょうから、味方もリスクを犯し、ゴール前に切り込むはずです。

 つまり、変化を引き起こすには、外部への表現が必須だということです。そこに至るまでの思考、判断の作業は内的に行われているということです。

 指導要領では、思考・判断・表現は一括りになっていますが、変化を生み出す力につなげるためには区別をした方が良いのです。

 ここまでを整理すると、以下のようになります。

InputとOutputをつなぐ➡は、知識・技能を内的に組み合わせる「思考・判断」を指している。


Outputは、「思考・判断」を繰り返した結果に出した、自分なりの答えを指している。

OutputとChangeをつなぐ⬆ 自分の答えの外部への「表現」を指している。 

学びに向かう力・人間性(Change)

 自分・仲間の成長や変化を生むという表現です。言い換えれば、「付加価値をつけたものを、どうやって世の中に提供していくか」ですが、付加価値と言われても子どもたちには中々伝わりません。ですので、ここもポケモンを使って説明をします。

「ポケモンのストーリーは、ポケモンを集めて、育てて、バトルして、勝ち負けがあって、次のステージに進むよね。」
「その中で、自分が成長したり、仲間と助け合ったりしながら、自分も周りも少しずつ変化していくじゃん。」
「みんなの学びも同じで、行動して、変化していくことで、自分の物語を進めていくことができて、それがこのChangeなんだよ。」

 このように、ポケモンのストーリーと人生を結びつけて説明しています。改めてこう考えると、学校での学習も、実際の社会活動においても重要なことは一緒で、正解のない世界を切り拓くためには、Change力が鍵となるのです。

 道具を集めるだけでもだめ。考えて自己完結するだけでもだめ。自分なりの正解を見つけ、表現し、現実に変化を起こして初めて、価値提供に結びつきます。

 つまり「自分でたどり着いた正解を、現実の行動として起こす力」が学びに向かう力・人間性なのです。

 そして、ChangeとInputをつなぐ⬇は、学びのサイクルを回し続けるつなぎの役割を果たしています。行動の結果を分析して、次の学習の計画を立てます。

次はどのような変化を起こしたいか?(Next)
もう一度チャレンジしよう(One more)
足りない部分を補おう(+α)
 

 すると、成功しても失敗しても、次の目標が見えてきます。つまり、「Change」を起こす行動までの過程をもう一度歩むことになるのです。

まとめ

 実際の授業や学習場面の活動は、サイクルではなく、行ったり来たり止まったりと複雑に絡んでいます。そのために子どもたちは、「今この活動をしているのは何でだろう?」と迷子になることも多いです。

 だからこそ、活動サイクルを見える化し、共有しておくことが重要なのです。

 すると、今の活動の場所を俯瞰的に見ることができ、学習の位置付けや意味、つながりを見失わなくなります今は、Inputに集中する時間。自分の答えを出せたから、友達に伝えるOutput。どう伝えたら大きなChangeになるかな?

 子どもたちが、このように自覚的に学び続けることで、新時代に必要な力を身に付け「できること」になっていくのではないでしょうか。

 以上、学習指導要領が示す「何ができるようになるか」を図化した、学びサイクルの解説でした。先生方の授業デザインや評価、子どもたちの力を伸ばすお役に立てたら嬉しいです。

 大切なお時間をとってご覧いただき、ありがとうございました。

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