現役の高校体育教師であるAPETが、本1冊を5分に要約し、その内容を日常使いできる具体的な行動まで掘り下げて紹介する。
今回は、「雑草」という戦略 予測不能な時代をどう生き抜くか 稲垣栄洋 著(静岡大学教授、農学博士)である。
まず謳い文句が面白い。植物学者✕ビジネス理論である。しかも、主人公は雑草。
そして、本著の発刊は2020年7月。未曾有の全世界コロナ禍の最中だ。
ということは、感染症がもたらした見えない未来への不安と恐怖の中で、多くの人がもがいていた時期に出版された本である。
故に「先の見えない将来をどう生き抜けばよいか?」
この時代を生きるほとんどの人が抱える問いに「雑草」の視点から答えた、間違いなく多くの人を救う1冊だ。
なぜ雑草か?
雑草と人間の生きる世界は、予測不可能という点でそっくりだ。
新型コロナウイルスや、津波地震などの天災、テクノロジーの進化による新たな職業の誕生、人口動態の変化による終身雇用制度の終焉。
規模の大きい変化もあれば、日々の生活における小さな変化にはいとまがない。例えば、変化が遅いと言われる学校でさえ、ICT活用によるオンライン授業が取り入れられたり、感染対策が主流のルールに変わってしまった。
突然大きな変化が起こる場所に住むという点では、雑草も同じ境遇である。
いつ踏まれ、抜かれ、刈られ、流されるか分からない。はっきり言えば、雑草は植物界では雑魚キャラである。
だがしかし、雑草は敗者ではなく、勝者だ。それはこの文章を読んでいる今この瞬間にも、雑草がそこかしこに生い茂っているという事実が証明してくれている。
決して、なんとなく生き残ったわけではなく、理由がある。彼らなりの生存戦略があり、それらはきっと私たち人間にも転用できる戦略のはず、というのが本書の主張である。
結論
まず本書の結論から始めたい。
それは「大切なことを一貫し、競争や耐久はせず、適応せよ」である。
大切なことを一貫
雑草にとって、永久不変な使命は「種子を残す」ことである。
次の世代に命をつなぐことが最大の目的であり、そのためには手段を選ばない。
天変地異が起こりうる世界を勝ち残るためには、逆境ですら味方につけ、変更可能な部分は変え、種子を残すための選択肢を増やすこと、この3つが必要条件なのだ。
雑草にとっては、攪乱(かくらん)が起こる外界への「適応」が「種子を残す」というぶれない軸を支え続ける戦略である。
これをルデラル(Ruderal)な戦略といい、競争相手が好まないニッチな場所を探し出し、その場所でNo1になることで、生存可能性を高めるのだ。
競争・耐久ではなく適応
それでは、雑草が攪乱世界に適応するための3つの戦略を具体的に紹介しよう。
逆境を味方に
逆境を味方につけるとはすなわち、一見災難に思われる状況を喜ぶということである。例えば、「踏まれる」ことは一大事であり、そんな場所は住みたくないランキング1位のはず。
しかし違う見方をする雑草がいるのだ。どういった見方かと言うと、劣悪な環境には競争相手が少なく、生存率が高まるチャンスだと考えるのである。
オオバコがその急先鋒である。なんと、踏まれることで種子が拡散される仕様なのだ。
どういうことかというと、オオバコの種子は濡れるとネバネバになる。そして誰かに踏まれることで、靴裏や車のタイヤなどにくっつき、運ばれて種子の分布を拡大しているのだ。
誰もが避ける踏まれやすい場所、つまりニッチであることを逆手に取り、種子のばらまきを可能にしてしまう。これこそが、逆境を味方にするという考え方だ。
変えられるものは変える
ルデラルな戦略をとる雑草は、変えられるものは変えてしまう。逆を言えば、変えられないものは受け入れるということでもある。気持ち良いほど、判然としている。
図鑑どおりに生えない雑草がいるのだ。図鑑によると「春」に咲く草が、実際は「秋」に咲いていたりする。これは私の推測だが、図鑑はサンプル数の多さや観測当時の状況をもとに分類されているのだろう。
結局は、人間の都合で「この草はかくあるべき」と恣意的に整理・分類されたにすぎない。
改めて問う。雑草の目的はなんだろう?
図鑑通りに咲くことか?いや、違う。
種子を残すことである。
そのためなら、咲く時期を変えることなんて屁でもないのだ。
雑草はこんなことは考えていないだろうが、「雑草とはこうあるべき」なんてクソ喰らえだと思って、日々を過ごしているとすら感じる。
人の仕事を例に考えれば、どうしても変えられないルールや環境がある。
(仕事をやめちゃえばいい、などの極論はひとまずおいておこう。)
そんなときに、不可能なものを無理くりにひっくり返そうとはせず、何であれば変えられるかを考えようと問うのだ。外部環境や他者を変えるのは時間も労力もかかる。
雑草ならそこに養分や水、酸素などのエネルギーを使う暇はないだろう。徒労に終わることを知っている。だから、変われる自分を変えてやろうの精神で適応するのだ。
雑草の助言を人間用にまとめると、「大切なことを守るためなら、自分の考え方や捉え方なんて変えちゃえよ」と、一段上からお叱りの言葉を頂戴することになるだろう。
選択肢を増やす
結論から言うと、自分の中に多様性を持つことが選択肢の増加につながる。
具体例を挙げよう。種子にも大小があるらしい。それでいて、生存率も異なるそうだ。
大きい種子を作るにはエネルギー消費も大きく、数多くは作れないが、生存率は高い。逆に小さければ、数多く作れるが生存率は低い。
要は、一長一短。格好良く言えば、トレードオフの関係である。
卑俗な例で恐縮だが、人間でいうと、イケメンは少ないが、彼女には困らない。フツメンはたくさんいるが、数打たないと彼女ができない。そんなところだろう。
さて、話を戻そう。
背の高い草むらに入ると、ズボンにくっついてチクチクするやつで有名な「ひっつき虫」。驚くなかれ、性質が異なる2つの種子を持っているのだ。
芽を出すスピードが早い「せっかち屋」と、芽生えが遅い「のんびり屋」の種子の2種類を併せ持つ。
ひっつき虫の生存戦略とは、要は種子に時間分散をきかすオプション保持戦略である。
先手必勝。萌芽までのスピード感は重要なのだが、もしその時期に人間の気まぐれで除草期間が集中したらどうなるだろう。せっかち屋は全滅だ。
その可能性を考えれば、のんびり屋の種子もいたほうがよい。一方が生き残れずとも、もう一方が生き残れば、目的は達成できるのだから。合理的だ。
改めて結論を述べると、多様性を内在し、選択肢を持つことは変化への適応力を高めることにつながるのである。
私達が学べること
本書の内容を私自身、どのように実生活に結びつけているかを紹介して終わる。
まず3つに大別するとこうなる。
1 予測不能な社会に生きていることの自覚
2 大切なことを自問し続け、自分の軸を固める
3 適応能力を高める努力を怠らない
1の認識を前提に置き、2で人生の目的を問い、3が手段の強化となる。
日常生活レベルで活かせる点は「3 適応能力の強化」だと思う。そのため、マインドセットを変えたり、行動に移せるよう、さらに小分けにした落とし込みをしておく。
・表面的な失敗から得られるものを計算しておく
・ダメージはあるものと心の準備をする
・当たり前の慣習や風習にメスを入れる
・日々のルーティーンに変化を加える
・新たな役割を引き受け異分野のスキルを磨く
・今持っているモノやコトを捨てない
いかがだっただろうか?
どんな変化や逆境があろうと、最後に立っている(いや、生えている)のは雑草であることは確信できたと思う。
そんな勝負強い雑草から、私たちのこれからの人生戦略を学んでいただけたら幸いである。
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