現役体育教師が【新学習指導要領解説 体育編】を噛み砕いてみた

指導要領

夜間定時制高校で現役の保健体育教師のAPETです。
今回は、前回ブログ「学びの地図つくってみた」の続編になります。

体育の学びの地図を作成するにあたり、学習指導要領(以下、指導要領)との対応箇所と僕なりの解釈を書きたいと思います。

この記事を読むメリットがある人とその理由

◆体育の先生を志し、教員採用試験の合格を目指す
 理由)①筆記試験で、100%出題される指導要領を易しい表現に翻訳している
    ②指導要領の趣旨が咀嚼されており、面接や小論文に転用できるパッケージとなっている
新学習指導要領の理解を深めたい現場の先生
 理由)①2019年〜移行推進、2023年〜完全年次移行となる高校の新指導要領をざっくりと理解できる
    ②文科省の視点とは異なる、現役体育教師による現場の視点が得られる
授業づくりに悩んでいる
理由)①授業プロセス(ゴール・スタート・ルート・ツール)が見える化されており、授業計画の参考になる 

学びの地図おさらい

まずはこちらの、体育授業の学びの地図をご覧ください。 

学びの地図について、簡単にまとめておきます。

①学びの地図は、指導要領を誰もが分かるよう「見える化」したもの
②作成側の立ち位置によって、地図の抽象度を変える必要がある
③先生以外の外部の人へ共有して、初めて効果を発揮する

指導要領のどこから、どうやって引っ張ってくるのか?

前提としてこの地図は、新学習指導要領に私なりの解釈を加えて作成されています。
そして、今回紹介する右上部分は「体育編 第2章 目標及び内容」(p29〜)がベースとなっています。
原本と見比べると、地図完成までの思考プロセスを共有できるはずです。

とはいえ、ボリュームたっぷりな指導要領をそのまま噛み砕くのは容易ではありません。
そのため、2つの
基準を設けて要点を抜粋していきます。
①網 羅 性
保健体育が目指す目標を達成するための、課題設定や学習・評価方法の網羅ができているか。
②実現可能性
入学時点の学習経験や能力に応じ、ギャップを感じたり、ハードルが高すぎないか。

「指導要領をモレなく、現任校の生徒がゴールできる」内容に落とし込んでいるということになります。

ゴール設定【Life with Sports】

とにもかくにも、まずは「ゴールの設定」が必要です。
なぜなら、ゴールがあって初めて「どう行くか?」を考え始められるからです。
とりあえずの一歩を踏み出す前に、大まかな方向性と距離を仮置きしてからスタートします。

思考の拠り所として、重要な言葉は繰り返される原則に則り、何をゴールにするかの仮説を立てます。
体育の目標を見ていくと、前文と以下の3つ項目すべてに共通のワードが出てきます。
それは「生涯にわたり」「運動の継続」というフレーズ。
したがって、体育のゴールは「生涯にわたり、運動が継続できる」にできます。
とはいえ、この言葉を全面に押し出すと、子どもたちの頭は拒否反応を示すはず。
4年間唱えられるキャッチフレーズにするため、柔らかく簡単に口ずさめる一言に言い換える必要があります。

そのため、生涯はLife・運動はスポーツに置き換え、「Life with Sports〜人生にスポーツを〜」にしました。

次は「ゴールの状態」とは、どんな状態なのかを考えます。
Life with Sports は聞こえはいいが、漠然としています。
ゴールに具体性を持たせるため、「フィジカル」と「メンタル」の2軸で考えます。

フィジカルゴール

実際に運動するといっても、週に何回?強度は?どんな種目?などの疑問が湧いてきます。
例えば、1ヶ月1回5分の筋トレでLife with Sportsなのか。毎日、3時間のランニングでLife with Sportsなのかという疑問です。

あまりに人それぞれで解釈ができてしまうので、具体性と信頼性を持たせるため、WHOの運動習慣を参考にします。
WHOが推奨する運動習慣は「週に150分のMVPA(中高強度身体活動)」ですが、難しい表現ですので分かりやすくします。
少し分解すると「1回45分程度で週2回、中高強度の自分の興味がある運動を継続できる」とできますので、これをフィジカル面のゴールにします。

ちなみに、週2〜3回の体育授業のカリキュラムは、推奨運動量を満たす時間数が割り当てられています。よくできているものだなぁと感心。

メンタルゴール

運動の量と質の目安ができたところで、次は運動に対する気持ちの面を考えます。

生徒の人生に、教員が伴走できる期間は極わずか。卒業後の人生の方がよっぽど長いのです。
だからこそ、自分が自分を運動に駆り立てる存在となる必要があります。

つまり「自らの意志で」運動しようと思えるマインドセットを持つこと、これがメンタルゴールです。

自らの意志で運動に取り組むためには、運動自体に魅力がないといけません。
例えば、仕事後にランニングをする人は「タイムを上げたい・仲間と楽しみたい・ダイエットしたい」などの魅力という花が咲いているからこそ、主体的に走れるのです。
学校はこの構図でいうところの、魅力の「種」を蒔いておく場所なのです。

では「運動大切」情報が溢れ、健康観が浸透した”お花畑”の運動習慣はどうなっているでしょうか。
平成30年度国民健康・栄養調査(p49)によると、運動習慣を持つ大人は「約3割」という現状です。
少なくとも9年間は体育の授業を受けているはずが、この惨状。
つまり、7割の人は自らを運動に駆り立てるほどの魅力を感じていないのです。

種が蒔かれていないのか、水や栄養を与えなかったのかは分からないですが、魅力の花は咲いていない現実があります。
こういった背景も含め、体育では「魅力の種をたくさん蒔く」ことが求められていると解釈しました。

フィジカルとメンタルのゴールを整理すると「自らの意志で、1回45分で週2回、自分の好きな運動をする」これが具体的なゴール状態になります。

「育てる力」の5本柱

ゴールが決まったら、次にどうすればたどり着けるかを考えます。
まずはゴール設定と同様、指導要領からキーワードを拾い上げます。

「見方・考え方」「課題発見と解決」「合理的、計画的」「心と体を一体」「自己の状況に応じ」「体力の向上」「楽しさや喜び」「運動の多様性」「体力の必要性」「考えたことを他者に伝える」「公正、協力、責任、参画」

キーワードとはいえ、かなり発散してしまいました。全部で11個です。(しかし、固い魅力の種がたくさんあるなぁ)
人が覚えていられる数は3つ、多くて5つ程度ですので、これらを5つにグルーピングし、単純化していきたいと思います。

1本目 視点を増やす力

「見方・考え方」「運動の多様性」

このキーワードは「視点」という切り口でまとめます。運動やスポーツをどのような角度で見ていくのか?という問いです。
指導要領では、「する、みる、支える、知る」という例があげられています。
この並列関係が意味するところは、「技能偏重はおしまいにしよう」に尽きますが、なかなか難しい。

これまでの体育授業では、上手さや好記録という指標、つまり「する+できる」ことに重心が置かれていました。
しかし、この盲目で限定的な運動との関わり方は、運動に高い壁を作ります。その結果は当然、ゴール未到達です。
そうならないためにも「運動の多面をバランス良く見てみよう」という考え方にシフトしているのです。

運動の多面性の例を挙げますので、サッカーワールドカップの決勝を思い浮かべてみてください。
ここに関わる人たちの視点を想像してみます。まずプレーヤーたちは、「する」視点でサッカーを見ているでしょう。
では、私たちはどんな視点になるのでしょうか?「みる」視点ですよね。もっというと、それを「支える」審判やコーチ、サポーターもいるわけです。ニュースで取り上げられた自国のチームはどこまで勝ち進んでいるのか?どんな選手が活躍しているのか?これは「知る」視点です。

このように1つのスポーツを見るだけでも、様々な角度があることに気づきます。
そして、自分の年齢や能力、興味関心などの立場に応じ、自然と異なる面に接しているのです。
この「自然」という部分を自覚できるようにすることが、運動のハードルを下げ、関わる頻度を高めることにつながるのです。

したがって「スポーツの多面を見る力」は、Life with Sportsに必要な1本目の柱となります。
ただ多面という表現は、堅さと多さを連想しそうなため、却下。
積み上げるイメージを持てる「UP」に、多面を「バリエーション」と言い換え、「視点バリエーションUP」に落ち着きました。

2本目 個別最適力

「合理的、計画的」「心と体」「自己の状況に応じ」「体力の向上」「体力の必要性」

これらは「個別最適な運動で体力を高める」とまとめられます。
個別最適な運動ができるようになるためには、2つの手順が必要です。

1つ目は「体力の分析」です。
例えば、筋力や持久力などの行動的体力や意欲、ストレスレベルなどの精神的体力があります。
これらの体力の初期値を数値化したり、メーターで表すとどの位置にあるかなどを可視化することが分析になります。
その上で2つ目に、「体力に合わせた運動」がでてきます。
実際にどう行うかは、思考や対話が関わってくるので、後の柱に譲ることにします。

要は「自分に合った運動をするには、自分を知ることから始めよ」ということです。
優しく言い換え「体力パーソナライズ」として2本目の柱とします。

3本目 向き合う力

「楽しさや喜び」「公正、協力、責任、参画」

ここは運動に対し、どのような気持ちで関わるかを考える項目です。
前提として、1週間に2〜3回の授業が確実にある訳ですから、前向きに取り組んでもらえた方が良いですよね。
人が進んで行動するためには、「自分で選んでやっている感」つまり、自律性を持つことが重要です。
しかし自分で選ぼうねと言って、餌の付いていない釣り針を垂らしていても、食いつかれません。
まずは食いつきたくなる活動という餌が目の前にないといけません。

食いつきたくなる活動とは、まず「楽しそう」なこと。
次に「安全」「ルールが守られている」こと。
さらに「自分が関われそう」「周りから認められる」場であれば、より美味しそうな餌になります。

授業環境は生徒が発する雰囲気の総量ですので、これらの意識を共有し雰囲気作りをする必要があります。
まとめると「ポジティブ・セーフティ・フェア」な関わり合いができる場を作る力、これが3本目の柱になります。

4本目 言語化力

「課題発見と解決」「合理的、計画的」

「よくわからないけど、なんとなくやってたらできた」この表現は体育などの実技科目で多く見受けられます。
これは「自然にできた」とも表現されますし、できたこと自体はもちろんグッドです。
一方でこの表現で良しとしてしまうと、進歩が止まってしまいます。
なぜなら、なんとなくでは運動の再現性が上がらないからです。

そこで必要なことは、試行錯誤と工夫の足跡を残す「自覚」です。
この足跡があるからこそ、先の一歩(次段階や難しい運動)が踏み出せますし、迷ったとき(できなくなったとき)に足跡をなぞることができるのです。

例えば、トウキック(つま先でのキック)しかできなかった子が、インサイドパス(足の内側でのキック)ができたとします。
「なんとなくこの辺で蹴ったらできた」で終わりにしたら、次の段階のインフロントキック(親指の上でのキック)でつまずきます。
もしここで、「足首だけでなく股関節も外に開く」「土踏まずの上にボールを当てる」などの自覚を持ちながら取り組んでいたとしたら、次の段階にも応用ができます。
インフロントキックで、「インサイドキックのときには開いていた股関節を閉じてみる」「親指の付け根にボールを当てる」のように、前段階の足跡を頼りに進めるのです。
そのために必要なのが、言葉による感覚の表現、つまり感覚の言語化なのです。

以上のことから「感覚でオッケーではなく、言葉にしてみよう」というメッセージの大切さが分かります。
少し長ったらしいのでギュっと縮め、「Not感覚,Yes言葉」を4本目の柱としています。

5本目 自分と仲間、それぞれが見ている世界をつなげて広げる力

「考えたことを他者に伝える」


指導要領には、「課題について思考し、判断したことを言葉や文章及び動作などで表したり、仲間などの他者に理由を添えて伝える」とあります。
ここを
私なりに砕いた結果、体験や知識、アドバイスをもとに自覚した運動の過程を、他者に伝えたり、聞いてみる力。
要は、自分なりに解いた”途中式”や”解答”を表現しあおう」ということになります。

運動ができるまでを考えてみると、”わたしの”できたと”あなたの”できたは全く違うもの。

例えば逆上がりをする際、「勢いをつけて足を上げたらできた」の子と、「体を鉄棒に巻き付けてみたらできた」の子がいたりします。逆上がりができるという事実は同じですが、できるまでの感じ方や試行錯誤の方法はそれぞれで違います。
この違いを語り合い、頭を捻り知恵を出し合うことこそ、集団授業最大の効用だと思います。
だからといって「じゃあ語り合おう」と言っても、中々その通りにはいきません。ですので、語り合うことの価値を補足したいと思います。

自分なりの解釈を伝え合うことで得られるメリットは、相互に3つずつあります。
伝える側は、知識の整理ができる。表現力が磨ける。知識の定着率が高い。この3つです。
反対に伝えられる側は、異なる考えに触れられる。共感力が高まる。課題に対し客観的な視点を持てる。の3つです。
思考を言語化して伝える力は、他教科にも応用できますし、それ以上に社会に出てからも重要なスキルであるはずです。

したがって、仲間とともに、考え、対話し、思考を深め、言葉を紡ぐ。
このフレーズのトゲを抜いて「Think & Talk with Friends」が5つ目の柱となりました。

まとめ

以上で学びの地図におけるゴール設定と

指導要領の解釈を試みて改めて感じたことは、指導要領の抽象度の高さでした。一種、理念的なものを感じてしまうんですよね。
逆を言えば、抽象度の高さ=どんな具体的な場面にも当てはめられる。これは強さです。だからこそ、現場ではこの強さを生かすべきだと思います。

指導要領を噛み砕いた学びの地図をもとに、目の前の生徒たちと「目指すゴール」「ゴールするために必要な力は何か」を共有していく。この地図を通して、生徒だけでなく教師をも、”学びの追求”に駆り立てられると良いなと願っています。

次回は、学びのスタイル(主体的で対話的な深い学び)について、指導要領の解釈を試みます。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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