カリキュラム・マネジメントを学校に実装するための答え

指導要領

 こんにちは。生徒や保護者に「カリキュラム上は・・・」と説明しているが、実際は意味を曖昧なまま使っている先生が9割だと思っているAPETです。

 さて、今回はカリキュラム・マネジメントの後半にあたる実装編です。カリキュラムの編成と運用時に押さえるポイントを、くだけた感じで具体例を挙げながら解説して、各学校で実行可能なレベルに紐解いていきます。

記事を読んだらこうなる

 ◆ 教育課程をカリキュラムに落とし込む方法が分かる

 ◆ カリキュラム・マネジメントを実際の学校現場で運用する方法が分かる

 ◆ カリキュラム編成会議で鋭い意見を出せるようになり、一目置かれる存在になれる

 

 まずはさらっと、前半のおさらいをしておきましょう。今回もカリキュラム・マネジメントは「カリマネ」と短縮しますね。

 

 カリマネとは、教科等を越えたベースにある資質・能力の結びつきを明確にし、分野をまたぐ転用を意図的に起こすためのリソース配分を行うこと。そして、評価と改善を繰り返し、知識等の結合による深い学びをデザインする。結果的に、育成を目指す資質・能力を持つ子ども像に近づくサイクルができる。

 

 つまり、カリマネが作り出すものは「資質・能力のリンクが引き起こす深い学び」です。

 この時点で、カリマネの中身をもう少し詳しく知っておきたい、そんな方は前半の解説をご覧ください。(一応日本で1番優しく、短く解説したつもりです。)

 この「カリマネの地図」に沿って、教育課程をカリキュラムに落とし込む方法から、現場での運用方法を書いていきます。

カリマネ3つの側面(キーワード)

 まず初めに、文科省が示している3つの側面をキーワード化して紹介します。

(1)教育内容の組織的配列

(2)PDCAサイクル

(3)教育リソースの分配

 旧指導要領では(2)のPDCAによる、教育課程のあり方の見直し(ビジョンの手直し)に重点が置かれていました。一方で、今回は資質・能力の育成という具体的な目標を達成するために、これら3つの側面からカリマネを行いましょうとなっています。

 とくに(1)の「組織的配列」が鍵で、汎用的な資質・能力の獲得には「リンク」による螺旋状の学びが重要だとされています。要は、「教科間をまたいだ資質・能力のつながりを設定して、意図的にリンクを設計してね。」と言うことです。

 また、(1)に重きが置かれ、学校独自に単元や指導内容の構成を検討せよということは、これまで以上に学校の裁量権が増加したとも言い換えられます。

(3つの資質・能力はこの記事で解説しているので参考にしてください)

グランドデザイン 〜教育課程をカリキュラムに落とし込む〜

 では、実際に配列をしよう。とやってみると、どのように配置するかの基準が定まっていないことに気づきます。したがって、まずはゴールを描こうと目標を定めるのが、カリキュラムのグランドデザインにあたります。

 グランドデザインの拠り所は、教育課程であり、参考にするものはもちろん指導要領です。指導要領の総則によれば、教育課程の編成では、「育成を目指す資質・能力を踏まえつつ、各学校の教育目標を明確にする」とあります。

 つまり、全国津々浦々の学校で掲げている学校教育目標は、3つの資質・能力とミックスされているでしょ?と言っているのです。

 とはいえ、学校の教育目標は伝統や歴史、地域の固有性が含まれており、新指導要領に合わせて変更するという学校は少ないでしょう。

 そのため順序は逆ですが、「学校教育目標という理念と理想」を、「現実的かつ具体的な子ども像」にブレイクダウンするという方法でカリキュラムを描いていきましょう。もちろん、教育目標を見直しても良いとは思いますが、それこそその点にリソースが割かれすぎて、運用に至るまでに時間がかかりすぎる気もします。

 見方を変えれば、カリマネは理念や理想を語りっぱにせず、具体的に何をすれば実現できるかまで落とし込み、達成可能性を高めるためのツールと位置付けられるでしょう。

 生徒像というグランドデザインを描く際、注意点があります。それは客観的な観点による制約を設けることです。

 例えば、時の学校長の気分や、教育課程主任の好き嫌いで「こんな子どもに育ってほしい!」みたいに、主観で決めてはならぬいうことです。

 なぜなら、グランドデザインは2~3年という中・長期的な視点で考えるもので、属人的な内容になってしまうと持続可能性が低くなるためです。

 そこで客観的な観点として出てくるのが、3つの資質・能力なのです。これらを2軸のマトリクスで整理してみると、教育課程上の学校教育目標を具体的な姿であるグランドデザインに落とし込みが簡単にできるようになります。

 ここでは、「人間性豊かで多様な考えを持ち、新たな価値創造のために、未来を切り開く意志を持つ人(筆者作)」という学校教育目標を整理してみましょう。

 横軸は学校教育目標、縦軸は3つの資質能力(①知識・技能②思考・判断・表現③学びに向かう力・人間性)をとってみます。

 このような整理をすると、理念的で雲を掴むような目標が、具体的かつ現実的で誰もが同様の解釈ができるところまで言語化できていると思います。

 余談ですが、この落とし込みを職員全体のワークショップ形式で行えると、各々の理想像や指導観を共有でき、対話が生まれるとも思います。

 結局のところ、現場で行われる授業がこの目標と地続きになっていなければ、足並みが揃わず、先生方の進むベクトルが分散してしまい、実現可能性が下がります。子どもに対話を求める今、私たち教師集団もこれを機に対話をしてみてはいかがでしょう。

 少し横道にそれましたので戻します。

 このように「横に目標、縦に3観点のフレーム」に当てはめることで、バラバラだった学校教育目標と3つの資質・能力が、「育てたい子ども像」として強固な1本のグランドデザインとなります。これで、カリマネの重い一歩が踏み出せるようになります。

単元配列表 〜3つのつながりを見える化する〜

 次に、先程のマトリクスで整理した育成を目指す具体的な子ども像と、単元配列の結びつきを考えます。

 サッカーで言えば、ゴール(グランドデザイン)が出来上がったところで、次はパスとドリブルでどう崩し、シュートまで持っていくかというルート(配列上のつなぎ)を考えます。

 結論としては、単元配列上には、3つのつなぎ方があります。(下図参照)

 それぞれ、

『①学年間(上下のつなぎ)』

『②各教科間(縦のつなぎ)』

『③単元間(横のつなぎ)』 です。

 つなぎ方のイメージはできたけど、「何を、どうつなぐか?」で行き詰まることが多いです。この行き詰まりを一言で表すと、つながりが多すぎてラインが複雑になるカオス状態です。

 ここが解決できないと、やたらパス回しをするが、攻め込まずシュートを打たないチームになってしまい、重要な得点チャンスが巡ってきません。

何をつなぐか?

 そこで「何をつなぐか?」となるのですが、もちろん学習内容つなぎではありません。答えは、グランドデザインで示した3つの資質・能力のつなぎ合わせです。

 重要なことは、あくまで表面的な学習内容のつながりではなく、ベースにある資質・能力です。表面だけを見てしまうと、関連性がなくてつなげないじゃん。という現象が起こります。

 例えば、数学の円・社会の緯度経度・理科の天体を考えてみます。これらには、見た目上の共通点はありません。しかし、少し洞察を加えて「角度」の問題として捉えると、各所で得られた知識をネットワーク化してつなぎ合わせる必要が出てきます

 そうすることで、一層深い知識・技能として共通点が見出されるのです。実践する際は、この層のつなぎ合わせを見つけましょう。(参考として、点と線の学びのイメージを挙げておきます。)

どうつなぐか?

 次に、「どうつなぐか?」ですが、シンプルに同類でつなぎます。これは、『知識・技能⇔知識・技能』『思考・判断・表現⇔思考・判断・表現』のようなつなぎ方です。そうすることで、1本の縦パスのようなキレイなパスが出せます。

 2つをまとめると、3つの資質・能力を1つずつにバラして、シンプルに同じもの同士でつなぐとなります。

 例えば、前半の記事にあった、国語の文章構造の型と、社会の歴史における徳川家光の政策説明を引っ張ってきます。

 ここでは、国語の知識・技能として、問題を整理し表現するための論理記述ツールとしての文章構造を学び、社会の知識・技能として、政策の裏にある当時の将軍や大名の思惑という多様な考えを学んでいます。

 個別で見ても外せないスキルではありますが、これらの転用が生まれることでグランドデザインの目指す生徒像に近づくための一段階深いレベルのスキルとして関連が図れるのです。

 単元配列の計画段階から、このようなつなぎ合いを設定し、可視化することで、各々で学んだ知識・技能タグのようなものを引き出し、各授業で意図的な活用と発揮の場面を生み出すことができるようになるのです。

 このように、資質・能力が抽象化されたグランドデザインを起点に具体化していくと、本来は各教科で学ぶ個別の知識・技能だったはずが、相互に関連して一層深い部分で結びつき、結果的に実社会向きの汎用スキル(生きる力)としての定着がなされるのです。

単元構成 〜具体(活動)と抽象(目標)の行き来〜

 グランドデザインで、目指す子ども像が持つ資質・能力を明文化した。

 単元配列上に、教科や学年をまたぎ、精選した資質・能力のつながりを見える化した。

 最後は、単元の構成です。ここでは、授業での資質・能力の活用と発揮の場面をデザインすること、実践後のチェックと改善をすることの2点が求められます。

 実際にやってみると、文章構造と徳川家光の例のように、歴史の授業で国語の知識・技能を活用発揮することもあれば、逆もあります。中でも、相互乗り入れパターンは、リンクの頻度や結合を強めることができるので、理想的な形です。

 さて、資質・能力を身につけるという目的に回帰すると、単元構成ではどのような手段が必要になるのでしょうか。ゴール前のシュートを誰がどう打つかというフィニッシュ形の作りこみです。

 主体的で対話的な学びがどこに発生し、どのように評価するか。教材や活動時間、教員数等のリソースの分配はどうするか。活動内容の構成や順序、優先順位はどうするか。などが挙げられるでしょう。

 そうです、いわゆる学習指導案ですね。このあたりは、すべての先生方が綿密な計画を練り、作成していると思うので割愛します。そして、最後に単元構成で忘れられがちな問題点を確認して終わります。

 それは、整合性があるかどうか問題です。

 具体的に言うと、育成を目指す資質・能力を備えた子ども像(目標)と、単元を通じて身につけている資質・能力との間に「橋がかかっているか」を逐一振り返ること。そして、逸れ始めていたら修正をかけていくことです。

 すなわち、絶えず抽象的な目標と具体的な活動の行き来をするということです。それこそPDCAサイクルですが、これの意味するところは、学校のトップだけでなく現場の先生方も、日頃からカリマネに携わっているということです。

 冒頭でも言ったとおり、カリマネとは学びのマネジメント、つまり子どもの実態に合わせた工夫です。そして、工夫を加えてもいいよという余白が1人1人の先生に多く与えられているという解釈もできるのです。

 この自覚を持ち、単元計画と実践後のチェックと改善を行っていけると、現場レベルでのカリマネが上手に回っていくのではないでしょうか。

まとめ

 【始めのグランドデザイン】
 教育目標と3つの資質・能力をミックスし、3観点マトリクスで整理し直す。

 【メインのつなぎ合わせ】
 育てる資質・能力軸で、単元配列上の3つのつながり(縦・横・上下)を可視化する。

 【現場の単元&授業デザイン】
 単元&授業内につながりを確保し、実践後に活動目標間の整合性チェックをして改善する。 

 今回は、学校のトップ層から授業を受け持つすべての先生方が対象になるカリマネの具体化と運用について解説しました。蛇足ではありますが、カリマネの学校実装を俯瞰したときに、筆者が見出せたカリマネの意義を考察したいと思います。

筆者的考察

 カリマネには、先生同士の対話と成長のストーリーも含まれる。

 高校は特に、教科の専門性が高まる関係で、見かけ上の内容はバラバラ。とはいえ、資質・能力を構造化してみると、深いところではつながっていて、その部分の育成はチームじゃなければできない。

 そのため、先生同士の「こうしたい」「こうあってほしい」という対話をぶつけ合うことでしか、理想の子ども像の描き込みはできないはず。この過程を避けてしまったら、これまでと変わらず、理念や在るべき姿のトップダウンによる押し付けになる。しかし、カリマネが現場レベルで実施可能な今、ボトムアップ型の目標設定や実践ができる時代になった。

 先生を含め、学校を取り巻く社会の教育資源の合意がとれる目標が描けたら、到達する手段として、異なる者同士の協力が必須である。この目標を可視化することで、戦国武将の旗印のようなスローガン的存在が生まれ団結力も高まる。

 そして、日々の実践はやりっぱなしではなく、子どもの現在地と目標の距離はどうなっているかの振り返りと反省を忘れずに行う。ダメなら改善。良ければ改良。先生も子ども同様、成長しなくてはならない。ここには、先生の成長ストーリーも描かれている。

 おそらく、ここがカリマネを通して身につく、学校や一教師としての本質的な役割でもあるのかなと感じたりもしています。

 考察を含め、最後までお読みいただきありがとうございました。現場の実践に少しでも貢献ができていたとしたら幸いです。また、内容に関する批評コメントをくださると、今後の励みになりますので、どうぞコメントよろしくお願いします。

コメント

  1. 橋本 和樹 より:

    法学者のごとく学習指導要領を読み解き、経営者のごとく実践にいかす方法を模索しておられる。
    特にマトリクス表を使った解説には心動かされました。
    尊敬します。学びの地図ならぬ教師の地図です。

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