はじめまして。現役の高校体育教師APETです。
この記事は、公立高校でリアルタイムで教えている体育教師から
■ 指導要領が変わるけど、イマイチわからないなぁ。簡単に説明して欲しい。
という方向けへの記事です。
そもそも新学習指導要領っていつから始まるの?
そういえば、最近「2020年から教育が変わり、新課程・新入試」と騒いでいるな。
うん…?実際のところ現場の動きはどうなっていたかな?
という方へ向けて、新指導要領の実施までの流れを以下に示します。
新指導要領の移行措置
2017年3月 | 告示 |
2018年 | 周知・徹底 |
2019年〜2022年 | 移行期間 |
2023年〜 | 年次進行での実施 |
※文部科学省 新学習指導要領 高等学校移行措置関連資料より
ということは、2019年現在は移行期間にあたり、移行に必要な措置が特例として適用されています。
ちなみに移行措置の特例をざっくり示すと、
①総則 単位数や履修、授業時数などの実務部分以外は新指導要領を適用
②各教科
(1)総合的な”探求”の時間へ改める
(2)特別活動は新指導要領を適用
(3)指導内容の変更(地歴公民、家庭)
(4)新指導要領の適用が可能(保健体育・芸術・福祉・音楽・美術・体育)
教科書等の対応を要しない場合など可能な範囲で、 新高等学校学習指導要領による取組を推進する
出典 文部科学省「高等学校学習指導要領の改訂に伴う移行措置の概要」より
つまり、保健体育において「現在在籍している生徒は新指導要領に基づいた指導が行われているでしょう。」ということになります。
移行期間中の現状は?
では、公立高校において保健体育のカリキュラムはどうなっているのでしょうか?
新学習指導要領でバッチリやってるよ。という高校がほとんどなのでしょうか?
(そもそも、現行や新に関わらず指導要領に基づいた計画と指導、評価がなされているのでしょうか?)
中には「新指導要領って何?おいしいの?」状態の方もいらっしゃるかもしれません。
肌感覚ですが、高校の体育教師の集まりで指導要領を教えていると胸を張っていらっしゃる方に会った機会はほとんどありません。かくいう私も曖昧な部分はありましたが。
そもそも指導要領に沿った計画、指導と評価が現場に浸透していかない理由は何でしょうか?
おそらく、「時間をかけて読んでも、誰にどんなメリットがあるか分からない。」や「読まなくても、一通りの授業はできているはず。」的なところかと思います。
要するに、「量が多くて時間がかかる。しかも、効果は謎。」という感覚です。
現実問題として、日々の校務と部活動に精を出す体育教師が指導要領を読み込み、授業に落とし込むことは中々に骨の折れる作業かとは思います。
ですので、このブログでは、指導要領を現役体育教師なりに噛み砕き、時間がない方でもおさらいができる内容を心がけて書いていきたいと思います。
まず10分だけ読んでみてください。「指導要領を知ると思ったよりも役に立つかも」と思っていただけたら幸いです。
新学習指導要領改訂の背景 編
え?保健体育編の解説じゃないの?と思われた方、すみません。ここからスタートです。
なぜなら、準備運動をやってから主運動に入るのと同じで、「全体像の理解」という準備運動がないとメインの運動をやっても怪我をしてしまうだけなのです。
スポーツにおいて、準備運動が不要という人はいないですよね。
全体像を理解すると、目の前に精一杯で1時間単位の授業に当てていたスポットライトが単元や年間の指導計画、体育を通じて3or4年間かけて育みたい力、もっというと学校全体の目標にまで広がっていく可能性があります。
すると、あら不思議。
一回一回の授業が目指すゴールにつながり、すべての活動の意味が深まりつながります。
そのための、全体像の理解。つまり、改訂背景の理解が必須なのです。
今回の指導要領改訂の背景は以下の3つのポイントにまとめられます。
② 知識の量と質のビッグバンと構造化の必要性
③ アクティブな学習者
「2030年の社会は未知数」
まず、今から10年前の2009年の日常生活を思い出してください。
ガラケーでi modeを開き、mixiで日記を書いて友達とコメントのやり取りをしてませんでしたか?(違ってたらすみません。)
さて、それから10年後の2019年はどうなっていますか?mixiで日記を書いている人が周りにいますか?いませんよね。
当時、YouTuberやFacebook、Twitterが今の時代を席巻することを予想できた方はいますか?
そうです。時代は超高速で進化しているのです。特に、テクノロジーに関しては、ムーアの法則と呼ばれ指数関数的な成長を遂げ、今までより更に進歩スピードが増すのです。
つまり、2030年の社会がどうなっているのか、何が問題になっているかはもう予想ができないのです。
ですが、教育は在り続ける。来たる2030年の社会で何が必要になるかも分かりません。
もはや、変化が早すぎて学校が教える範疇も超え、内容も時代遅れになりかねません。
そこでこの問題を解く鍵が次の知識のビッグバンと構造化なのです。
「知識の量と質のビックバンと構造化」
この部分は指導要領の根幹に関わるので丁寧に進めます。
前提として、情報と知識は区別します。
ここでは、知識=様々な情報をつなげ、整理、理解することで役に立つ形にしたもの とします。
情報の量
世界のデータ流通量の推移はどうなっていると思いますか?
毎日Youtube見てるし、暇な時間はNetflixで映画観てるし、Twitterのツイートも欠かさずチェックしてる。ということで、少なくともデジタルな世界での情報量が増えているということは容易に想像がつくでしょう。
ただ、増え方が尋常ではないのです。
以下は世界のトラフィックの推移です。
※総務省 平成29年情報通信白書より
2011年は年間0.4ZB(ゼタバイト)。GB(ギガバイト)換算で4,000億GBです。
(月間⇒年間換算 エクサバイト⇒ゼタバイト換算にしています。)
例えが難しいのですが、512GBのiPhoneが約8億個分です。
よく分からないですが、とてつもない量がデジタル空間上に存在していることはなんとなく想像がつくでしょう、
では、2020年の情報量はどうでしょう。
予測値ですが、年間2.3ZBで約6倍になっているのです。iPhone48億台分…
しかも、モバイルデータの成長率は固定インターネットの成長率より高いのです。
つまり、スマホ1人1台世代の高校生が情報へアクセスしようとしたら、情報を「いつでも」「どこでも」「どれだけでも」手に入れることができる社会なのです。
知識の量
情報量が絶賛爆発中とはいえ、情報はあくまで情報。
それらをつなげて、整理し、理解することで始めて知識という使える形になります。
とはいえ、情報量が増加すれば新たに生みだされる知識も増加すると考えたほうが良さそうです。
良い例ではありませんが、体罰教師の炎上事件について考えてみましょう。
ここ数年でSNS上で教師の体罰が発覚することが目に見えて増えてきました。
実は教師の体罰禁止は学校教育法で1948年の施行以降ずっと(ひっそりと)謳われていました。
ということは、体罰教師は昔から問題になっているはずなのですが、なぜ現代のような取り上げられ方がされていなかったのか。
もちろん、保護者側も「教師の言うことは絶対だ。」という相互の関係で成り立っていた時代的背景が多分にあると思いますが・・・(筆者は全くもって理解できませんが)
現在は誰もがアクセスできる媒体に、「教師とは言えども体罰はダメでしょ」という情報が溢れています。
これも圧倒的な情報量の増加により、正しい情報にアクセスできる可能性が高まり、情報受信の格差が縮まったことが要因に挙げられるでしょう。
その情報をもとにして、動画を撮り、SNSにアップすればこの状況が変わるかも、という知識が身に付き、行動に移している結果が炎上事件の増加につながっているのです。
要するに、情報量の増加に伴い、知識も生まれやすくなるだろうということです。
知識の質
知識もただ量が増えれば良いのではなく、質も大切です。
◉これまでの知識は専門家が研究した体系化されたものを一方的に学んで使うもの
◉これからの知識は誰もが生み出し、発信・表現ができ、再生産するもの
実は、この再生産までの過程が「知識の構造化」なのです。
構造化とはなんぞや?ということで、次は真面目に教科書から例を出します。
授業の中から保健サービスと健康を例にとってみましょう。
教科書を平易に進めてしまうと生徒にラリホー(Zzz…)がかかりそうな分野です。
まずは以下の情報を順番に追ってみてください。
情報No2 健康診断は学校保健安全法という法律に定められている(発見)
情報No3 行政は法律に基づいた活動をしている(指導要領の担保、教科書の内容)
情報No4 法律は国会でつくられる(公民分野)
情報No5 国会議員を選ぶのは我々国民である(実生活とのつながり)
これは私が実際に行った授業の展開です。
意図としては、
- 身近な出来事と新たな知識を結びつける
- 行政や法律というイメージしにくい部分と日常生活をリンクさせる
- 発見や感想を自身の行動に反映させる
こんな感じです。
生徒がこれらの情報の断片(ここではNo1〜5までの情報)をつなぎ合わせることで、保健行政の重要性や活用法といった新たな知識を再生産していくのです。
このような作業が「知識の構造化」といえます。
これまでの話のまとめ。
知識を再生産する構造化のスキルが備わっていれば、情報ビッグバンによる社会の変化にも対応できるのではないかというわけです。
さぁ、改訂の背景の3本目に入ります。最後は主体についてです。
「アクティブな学習者」
ここで問題です。
情報の断片をつなぐ作業は誰が行うのでしょうか?
「いや、子どもだろ!」というツッコミが入りそうですが、果たして授業の中に情報をつなぎ合わせる作業がどれだけ組み込まれているでしょうか?
かなり極端ですが、よくある授業の流れ。
- 先生の説明を聞く
- 板書をノートに写す
- 教科書の文章の穴埋め問題を解く
- 答えを見て丸付けをする
さて、この授業に子ども自身がアクティブに情報をつなぎ合わせる場面はありましたか?
答えはNOです。
なぜなら、全ての指導過程が生徒にとってパッシブ、つまり脳の論理回路をつながない作業だからです。
板書や問題を解く部分、答え合わせに関しては生徒がアクティブなのではないかと思われますが、大切なことは「知識のつなぎ合わせの過程」があるかないかなのです。
例えば、板書の”写し”は情報を黒板からノートに書き直すだけの作業ですから、そこに生徒の考えや知識が反映されることはほとんどありません。
以下は、指導の手立てに近く、各論的な話しになるのでざっくりと。
これが単なる写しではなく、板書にある情報から生徒自身の気付きや推測した仮説、課題解決のための行動プラン等が書き出されれば、アクティブな活動です。
なぜなら、気付きや仮説、行動プランは生徒の経験や知識などのフィルターを通し、新たな知識が再生産されているからです。
よく考えれば、既存の知識や他分野の知識と融合させなければ、気づきや仮説は立てられません。
また、教科書の穴埋めも、丸付けも、単なる「情報の転記」に過ぎない活動です。
ではどうしたら、生徒がアクティブな学習者になれるのか?
指導要領には、指導過程に入れ込む視点が3つあると書いてあります。
- 学習の見通しの中に興味や関心を持ち、主体として学ぶ生徒。
- 培ってきた知識や新たな知識、他者の考え等の文脈との対話。
- 学んだ見方や考え方から実社会の課題や社会との関わり方を見出す深い学び。
あ~、そういえば!と思われた方、そうです。「主体的・対話的で深い学び」というやつですね。
今回はアクティブな学習者は誰なのか?を再認識することが大切なので、この部分はまた違う記事で紹介しようと思います。
さぁ、以上が指導要領改訂の背景になります。
時代の変化は確実で、その変化に対応し生きていく子どもが生涯学べるような人材に育ってほしいという願いがあっての改訂なのですね。
この全体像を意識しただけでも、時代観や必要なスキル、学ぶ主体にとってどのような活動がよいのか、授業デザインに落とし込めるかもしれません。
まとめ
②【スキル】知識と知識をつなぎ合わせて再生産する、”知識の構造化”が必要
③【主体】”子ども自身が”アクティブに情報の断片をつなぎ合わせ構造化を行う主体に
授業づくりの参考、指導要領の理解につながってくれたら幸いです。
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